眼鏡越しの風景 EP17 -弟子②-

黒船襲来とばかりに祖父と私、二人のお出かけにシラーっと加わり、自由に振る舞うおチビ怪獣の弟だが、末っ子ゆえの、生粋の甘え上手と要領の良さで、めきめきと頭角を現し、徐々に私の立場を危うくした。

「出かけるぞぉ」の一声が発令される少し前、祖父がお出かけ準備で静かに部屋を出ていくのだが、要領の悪い私は、いつもその気配に気づかない。
こしゃくにも祖父の動きを察したおチビ怪獣は、玄関までサササーッと廊下を滑るように走り、祖父のお出かけ用の革靴を下駄箱から出し、玄関のたたきに揃えて並べる。
極めつけは、正装した祖父を体育座りでニコニコ見上げながら待っている。

「なんだよぉ、この猿っ!お主は秀吉かっ!」
と、頂上決戦に先手をとられ、私はなんだか面白くないっ。
意味なく不機嫌になり、「行かないっ!」と拗ねては、出掛け際の祖母を困らせた。
もちろん、置いていかれないことを知るがゆえのワガママだ。
不機嫌なまま、前を歩く三人のあとを、少し離れ、ふてくされた風にダラダラと歩いていく。

おチビ怪獣が現れてからは、祖父が好きだったあの純喫茶を訪れることもなくなり、行き先は近くの商業施設のファーストフードやファミリーレストランとなった。
あのフォークの刺さらない硬いあんドーナツより、生クリームたっぷり、ふわふわのショートケーキの方が子どもの私には断然魅力的で、できたばかりの駅前のショッピングモールの華やかさと、目新しさにドキドキワクワクして、いつしか色褪せた路地裏の小さなお店を思い出すこともなくなっていった。

海沿いを走る電車に乗ると、ふと寡黙な祖父との懐かしい時間がよみがえる。
あの駅はいったいどこだったのだろう。
古いショーケース、くすんだガラス越しに見た、乾いたバタークリームケーキと、祖父の横顔。

そして私は、いつかの駅を今も探しつづけている…。

♪ My Favorite Song
ファミリーランド にこいち

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

この著者の最新の記事

関連記事

Language

ピックアップ記事

  1. 神戸市民球場

    2019-1-14

    【神戸の豆知識】プロ野球の会場としても使われた神戸市民球場、震災後仮設住宅として使われた後に解体された

    ※アイキャッチ画像引用:震災記録写真(大木本美通撮影) 神戸市民球場 1928年に昭和天皇の即位を記…
  2. 2020-2-4

    兵庫の味『ポテトチップス いかなごのくぎ煮味』が発売

    兵庫の味『ポテトチップス いかなごのくぎ煮味』が発売 カルビー株式会社(本社:東京都千代田区、代表取…
  3. モザイクガーデン観覧車

    2020-4-2

    「BE KOBE」モニュメントとモザイク大観覧車がイタリア国旗カラー

    「BE KOBE」モニュメントとモザイク大観覧車がイタリア国旗カラー 神戸市は、新型コロナウイルスの…
  4. 神戸地どり屋

    2018-11-29

    JR神戸駅から徒歩2分で焼き鳥の美味しいお店「神戸地どり屋」に行ってみた

    JR神戸駅の北側で徒歩2分で行けるコスパ最高の焼き鳥屋さん神戸地どり屋に行ってみた。 大将の人柄がよ…

情報提供

LINE@はじめました

KOBE Total Pressチャンネル

ページ上部へ戻る