眼鏡越しの風景 EP21 -四桁-

駅で電車を待つ暇つぶしに、子どもの頃からついついしてしまうことがある。
4桁の数字を目にすると始まる「勝手にジュー数」という私が密かに付けた変なネーミングの「暗算系頭の体操」アナログゲームだ。
そのルールは単純なもので、4つの数字をそれぞれ一回だけ使って四則演算し、さらに出てきた答えを使い、最終的に答えが10となればいいのだ。

向かいのホームに滑り込んだ電車の車輛番号。
手に握りしめている切符の番号。
線路脇の側道を走る車のナンバープレート。
世の中には4桁の数字があっちにもこっちにも溢れている。

改めて調べてみると、「勝手にジュー数」などというへんてこりんな名前でなく、「テンパズル」というカッコいいネーミングが付いていた。

例えば、数字が「5432」の4桁であれば、
まずは、5-2=3
計算で出た数字の答え「3」と、4桁数字の使用していない残りの「4」と「3」を使い、
4+3+3=10という具合に、10になればOK。

小学生の頃、毎週電車とバスで水泳教室に通っていた。子供数人に対し、お友だちの親が1人当番として付き添い、プールへ送り届けてくれていた。
小学校低学年の子供たちは、電車でわちゃわちゃと騒がしく、引率もかなり大変だったと思う。

ある日、引率していたママが、子供たちを静かにさせる為、みんなに一声。
「さて問題です!」
「自分の持っている切符の数字を使って、早く10に出来た人には、今日のおやつを1つおまけね~!」

お腹を空かせた水泳後に毎回食べるちょっとしたおやつは、みんなの最大の楽しみだった。
「1つおまけ!?」と聞いた瞬間、みんなの目の色が変わった。
余りのおやつは3つ、子供は7人だ。

「よーい、スタート!」
子供たちは切符の数字をジーッと見てはブツブツ
「あーでもない、こーでもない」と暗算。

閃くと誰もがニンマリし、引率ママに駆け寄り、答えをコソコソ耳打ちした。
早く正解した子は、他の子の難解な数字の羅列を背後から覗き込みながら、
「僕、もうわかっちゃったもんね」と、余計なおせっかいをしていた。

そもそも、この遊びは答えを導き出す過程がゲームの答えとなっていて、
正解を耳打ちするためには、頭の中で整理し伝えることが必要で、余計なお喋りをしていると計算式を忘れてしまい、答えを伝えることができなくなる。
引率ママの狙い通り、見事に電車内は静かになった。

私はというと、水泳教室のライバルでもある奴の
「僕、もうわかちゃったもんね~」
が毎回悔しくて、水泳教室以外の日も4桁を見ると、
目に入る数字を片っ端から「10」にする変な癖を身に付けてしまった。

あの日の「さて問題です!」から数十年。
電車待ちのホームで思い出すのは、アイツのしたり顔と「四桁加減乗除症候群」の癖だ。

♪My Favorite Song
くせのうた    星野 源

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

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