眼鏡越しの風景EP30-流行-

「うん!似合ってる」大きな鏡に映る私へ、そんな独り言を呟く。
試着室のカーテンをシャーっと勢い良く開けるとお店の喧騒が再び耳に戻る。

「これ、着て帰ります!」
レジの前で、6,980円の値札をぶら下げた私が佇む。お店のお姉さんは驚く様子もなく、「失礼します」と私の襟元を少しめくると素早くタグを外し、私の着て来た洋服を慣れた手つきで包んでくれた。
こういうお客さんよくいるのかなぁ~と、内心思いながらも、何事もなかったようにその紙袋を受け取る。

「これ、履いて帰ります!」
「これ、かぶって帰ります!」
「これ、付けて帰ります!」
パンツにスカート、帽子に、アクセサリー。

私はいつの頃からか、買ったらすぐ身に付けることが癖になっていた。その洋服や帽子が今日という街の風景にどのように溶け込むのか、嬉しい気持ち込みですぐに試してみたくなるのだ。坂上の雑貨屋さんで偶然見つけた、べっこう色のスクエアリングは出逢ったトキメキが衝撃的で、お金を払うと、その場ですぐ指にはめた。坂を下りながら太陽の光に掌を翳すと秋色に輝いた。

そんな私もかつては、購入した雑貨や洋服を大事に仕舞い込む人だった。新しく買った洋服を、どのタイミングで着ると一番素敵で、最も効果的だろうといつも考えていた。
お友達との食事会?
気合盛り盛りの合コン?
カレとのデート?
いつだ?いつなのだーーー!?

ある日、母がそんな私に「新しい洋服、大事に仕舞い込んで、どうするの?」
「すぐ着たら?流行遅れになるよ」と、呆れ気味に言った。

いつも私は待っていたのだ、洋服屋のお洒落なお姉さんが言う「ちょっとしたお出かけ」や「ちょっとしたパーティー」のハレの日を。真新しいお洋服を家のクローゼットに並べ、たまに出しては試着、鏡前でファッションショー、お出かけを夢見ながらニンマリ。今か今かと出番を待つ新入りの洋服たちは、クローゼットの中で準備万端「よーいドン!」の“ドン”「いつ言うんだよ!」と、文句を言ってきそうだった。

いつの間にやら季節は過ぎ…今年はとうとう着れなかった…と、洋服たちはタンスの肥やしになっていた。シーズンを逃してしまい、当時我が家のお洒落番長だった母の言うことはやっぱり聞いておくかと、 “買ったらすぐ着る派”に転身した。

ただし、靴だけは例外で必ず朝におろす。おばあちゃんが昔“新しい靴はお天気のいい朝に下ろしなさい”と言っていた。

フランスの諺も“素敵な靴は、あなたを素敵な場所へ連れていってくれる” という。祖母がその諺を知っていたかはわからないけれど、知恵袋のおばあちゃんと、ファッションの都パリぃ~のフランス人が言うことは聞いておいた方が良さそうだ。

♪My Favorite Song
Tシャツの恋   TUBE

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

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