眼鏡越しの風景EP48-宿借-

近頃は遅め出勤となり、それまで出会うことのなかった、始業ギリギリ通学の子供たちと一緒になることが増えた。時々、見かける彼女は小学3年生くらいの女の子。
ピンクのランドセルに、バレエチュチュのようなふんわりチュールを重ねた短めのスカート、その下にはこれまたピンクの白い水玉模様のレギンス、上には黒のパーカーを羽織り、いつもレースで縁取りされた黒の日傘を差している。ピンク色の可愛らしいお洋服スタイルに、黒のアイテムを入れてくるカッコ可愛いスタイルがお好みのようだ。

そんな彼女の登校はいつも遅刻ギリギリ。途中何度か立ち止まっては、差していた日傘を浅く肩に掛けると、空を見上げながら背中の日傘をゆっくりと手元で回し始める。日傘はアンテナと化し、その姿は宇宙と交信しているかのように見える。しばらくすると、また思い出したようにゆっくりと歩き出す。

高い空には太陽が照りつけ、信号待ちをしていた私は不規則に動く大きな日傘と、彼女のふわふわとつかみどころなく歩く姿を、そのままやり過ごすことができなかった。
「見上げる先には何があるのか。」
ついつい、こちらもつられて目線を空へ向ける。何を見ているのか、見えない何かが見えているのか、その真相は彼女のみぞ知る。見上げる私の頭上には、いつもと変わらぬ夏空が広がっているだけだった。

始業間際のこの時間は、登校生の姿もまばらとなり、遅れまいとする子供たちが、ランドセルを左右に大きく揺らし、私を追い越していく。彼女以外の風景は疾風のごとく朝の空気を掻き回すと、一瞬の静寂からふたたび大音量で響く蝉の声が耳に戻る。

小さな体に大きな日傘、遠ざかっていく後ろ姿は動いては止まりを繰り返す、巻貝を背負う小さなヤドカリみたい。傘の下から日なたにチラリと顔を出す姿も、おしゃまで可愛いヤドカリ。日焼けに気を遣う、美白女子は今日ものんびり小さな歩幅で通学路を行く。遅刻は気にせずとも、日焼けは気にするお年頃。彼女のそんな自由な時間軸を少し羨ましく思う。先生や友だちから「今日もヤドカリちゃんは遅刻だね~」と言われようとも、日傘に隠れ、恥ずかしそうに笑っているだろう。

夏空を見上げていると、このまま駅を通り越し、どこかへ行ってしまいたい。サボタージュするには、私は少し大人になりすぎた。

今日も暑くなりそうだ。

♪My Favorite Song
日傘をさして   サニーディサービス

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

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