眼鏡越しの風景EP75-記憶-

普段から通りや路地を散策するのが好きな私。
時間があれば電車を乗り継ぎ、未踏の場所へ行ってみたくなる。

冒険好きなわりになぜか方向音痴。
改札を出ると、たいてい目的地とは真逆の方向へ進んでしまう。
そんな私にも、どうやら神さまは、方向音痴を補う別の能力を与えてくださっていた。
それは視覚情報に付随した、様々な別の情報も一緒に記憶出来る能力。

一度行った場所なら、“改札を右に出て横断歩道を渡り、線路を右手に見ながら進み、茶色の壁の商店を突き当って、オレンジ色の看板の角を左に曲がる”と、行き方を空でスラスラと言えてしまう。これは、以前訪れたライブスタジオへの道順だ。

歩いている時は、いつも一枚の写真のように視覚で風景全体を捉え、そこにどんなお店があったかなどの細かい情報を吹き出しのようにあとから加え、頭の中の地図を完成させていく。訪れた場所の風景がそのまま変わらなければ、記憶は何年たっても有効。過去の数々の経験から、図形や色を捉えるのが得意で、もともと視覚記憶タイプの人間なのだ。日常生活においても視覚情報に結びつけ他のこともよく覚えている。誰と会ったか、何を話し、どんな服を着ていたか、お皿のエビフライは何本だったか、相手はどんなメニューを頼んだのか等、わりとどうでもいいことまで詳細に記憶している。

その反面、聴覚情報だけでは、記憶に残りにくいようで、特に仕事で複数の方にお会いすると、たいてい名前を忘れてしまうので、名前の漢字を図形化し、相手の顔に貼りついているようにイメージする。その方の出身地が北海道ならご当地グルメや観光地の画像を重ねると、より記憶に残り易いようだ。私の頭の中では出会った相手に毛ガニや味噌ラーメンのステッカーが貼りついているようなものだ。

少し前には、こんなこともあった。不定期で数年ごとに訪れている場所へ向かう道すがら、大きなホームセンターがあり、その横を通り過ぎると、線路と平行して走るまっすぐな道に出る。いつもその場所にさしかかると、最初に訪れた時に交わした会話を思い出し、毎回その話をしては笑ってしまう。話の内容は強く印象に残るようなものではなく、普段は思い出しもしないのだが、同じ場所を通ったこの瞬間だけ、時空を越えてシンクロした光景が頭の中のスクリーンに映し出される。いったいこれで何度目のリバイバルなのだろう。

記憶の話でいうと、テレビや映画を観ながら、ストーリーに出てくる、主人公の背景にチラリと映る街並みを見て、そこがどこで撮影されていたのか、場所当てをするも好きだ。だいたいのロケ地は東京やその近郊のことが多い。上京した時には、路線図を片手に、降車した駅にオリエンテーリングのようにチェックを付け、今日はこの駅を深堀りしよう!と街歩きが趣味だった。
東京在住の友人は「長年住んでいるけれど、今まで一度もその駅で降りたことないよ~」と、マイナーな駅まで網羅していた私に、ずいぶんと驚いていた。今でも訪れた記憶はかなり残っていて、この前見たドラマで、主人公の背景に映り込んだ、以前はセレクトショップだった場所に『For Rent』と、赤の看板が掲げられていたのを見つけてしまい、「あぁ…あのお店、閉店したんだなぁ…」と、ドラマの内容に関係なく、実際の閉店をドラマの背景で知り、ガッカリしたことがあった。そんなドラマや映画のロケ地当てクイズの答え合わせはどうするかというと、エンドロールに流れる「撮影協力」を確認し、当たったと一人で喜んでいる。ロケ地がわかった嬉しさではなく、あの時に自分が訪れた、あの場所を覚えていたという記憶の正解がうれしい。『街中クイズ、ここはどこでしょう?』があればぜひ出場してみたいと思っている。

この特技は、なにかの役に立つのかと言われれば、これといってなんの役にも立たないのだが…よみがえる楽しかった気持ち込みで、心が温かくなるのだ。

路地裏に宿る遠い記憶、夏の想い出は、また今年も新しいシーンを加え、再上演される。

♪My Favorite Song
記憶   MISIA

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

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