眼鏡越しの風景EP61-八朔-

毎朝通る道沿いに、誰が植えたか分からない大きな八朔の木がある。
この季節になると、たくさんの実をつけ、その木には鳥たちが集い、朗らかに歌い、実をつつきながら楽しそうにしている。頭のいいカラスたちは実を枝から落とし、落ちたものをついばんで、中の美味しい部分を器用に食べている。食べるのに飽きると実をコロコロと足で転がし遊んだり、その木の周りはいつも賑やかだ。季節が進むにつれ八朔は黄緑から黄色、そして山吹色へと色を変える。高い木に見え隠れする寒空の中に煌めくビタミンカラー、立ち止まり見上げると今日の自分の元気を確認するかのよう、いつもと同じながれで私は木の下を通り過ぎる。

ところが最近、この木に貼り紙がされている。これまで何年もの間すくすくと育ってきた八朔の木だが、どうも植わっているこの場所は公共の土地らしく、勝手に植物を植えてはいけないのだそう。貼り紙には「○○日までに、この木を撤去してください。なお、○○日までに撤去されない場合は、こちらで撤去致します。」と書かれてあった。私が知る限り20年以上実を収穫している人を見たことはないし、植えた人はどこかに引っ越してしまったのか、今となっては誰が植えたのかさえわからない、持ち主のいない木になってしまっていた。法律やルール上はもちろん、そこに八朔の木があってはいけないのだろう、しかし大きな木が、今が季節とばかりに美味しそうな黄色の実をつけ、空に向かって枝葉を広げている姿を見ると、ここに育ってしまった木に罪はなく、こんなに元気な木が、数日後に伐採されてしまうことが、なかなか受け入れられず、可哀そうでたまらない。そうは言ってもなんの力もない私にはどうすることも出来ないのだが…。

調べてみると八朔の木が実をつけるまでには5年以上、食べられる美味しい実をつけるには、更なる年数がかかると書いてあった。規定外の街路樹が植えられていることは、管理者としての安全責務や鳥たちの食べ散らし、落ちた実で道路が汚れるという衛生面の課題、私が知らないというだけでこの木が誰かの迷惑になっているかもしれないことなど、現代ルールの中ではきっといろいろ問題があっての結果なのだろう。それでも長年見てきた者として、伐採でなく、この木が安心して生きられる場所へ、植え替えてもらえたらと願わずにはいられない。

日々の生活の中、一瞬で通りすぎてしまうその場所に暑い日も寒い日も20年以上、佇み育ち続け、寒々とした冬の季節に、たわわに実る鮮やかな黄色は生きる力そのもののようにも思える。毎日ただ通り過ぎるだけの仲なのだが、私はこの木の下をいろんな表情をしながら通り過ぎたであろう。今はこの木を最後まで見届ける使命があるような気がしている。

今日も遠くから信号向こうに手入れされていない緑のモジャモジャ頭が見えてきた。まだそこに居てくれることに、どこかほっとしている。

♪My Favorite Song
さいごのひ   スキマスイッチ

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

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