眼鏡越しの風景 EP4‐夜光‐

奏 文太郎(カナ ブンタロウ)
私は、彼らのことをこう呼んでいる。

この夏、救出したカナブンたちは7匹。
まさしく、飛んで火に入る夏のなんとかなのだ。

毎日通る歩道の両側に、モルタル塗装の浅い溝がある。
そこは夜になると、外灯に引き寄せられて迷い込んだ彼らが、ポトンと落ちる奈落。

自慢の天鵞絨光沢の硬い背中が、塗装で滑る。
そして、起き上がれず、天を仰いだまま力尽きて屍となるのだ。

通勤で忙しい朝、今朝も2匹連続で、足をバタバタ動かし起き上がれないでいる。
彼らはいつから何時間こうしているのだろうか。
ここで見過ごせば、私が帰宅する頃にはきっと死んでしまう。

そーっと人差し指を近づけてみる。
ギュッと六本脚でしがみつき、握り返す力には安堵の様子が伺える。

妙な使命感から始めた、夏から秋に駆けての朝活救出パトロール。
もう、かれこれ5年ほどになる。

日本昔話に出てくる竜宮城に招待した亀やはたを織る鶴も然り。
カナブンたちよ、そろそろ恩返しがあっても、いい頃じゃなかろうか…

秋の夜長、虫たちの声をぼんやり聴いていると「オンガエシニキマシタ」
小さな声が聴こえたような気がして、窓をそっと開けてみる。

そこに居たのは、天を仰ぐ8代目 奏 文太郎

どうやら「タスケテー!」という空耳だったようだ。

♪My Favorite Song
真夏の夜の匂いがする あいみょん

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

この著者の最新の記事

関連記事

Language

ピックアップ記事

  1. ビーナスブリッジ

    2019-1-30

    【神戸の豆知識】ビーナスブリッジの名前の由来「金星台」で観測された天体現象は次回2117年まで見る事ができない!

    ビーナスブリッジの名前の由来「金星台」で観測された天体現象は次回2117年まで見る事ができない! 金…
  2. モザイクガーデン観覧車

    2020-3-17

    神戸ハーバーランドumieモザイク大観覧車が青く染まるというおはなし

    神戸ハーバーランドumieモザイク大観覧車が青く染まるというおはなし 世界34か国で水・衛生支援に取…
  3. 神戸牛

    2019-1-9

    【神戸の豆知識】神戸牛っていう牛は居ない!!

    神戸牛の特徴 神戸の人ならみんなが知っていると言ってもいい神戸牛はサシ(脂肪)が筋肉の中に細かく入り…
  4. 2020-3-19

    人気声優、神谷明さんの声で火災予防の啓発

    人気声優、神谷明さんの声で火災予防の啓発 株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」)が作成する動…

情報提供

LINE@はじめました

KOBE Total Pressチャンネル

ページ上部へ戻る